勝率だけを上げにいくと、何が起きるか
ターゲットを手前に、損切りを遠くに置けば勝率は上がる。上がったのは腕ではない。勝率を追うと静かに消えていく「母数」と、記録の書式で止める方法。
含み益が乗っている。ターゲットまではまだ遠い。マウスは決済ボタンの上にある。ここで閉じれば、今日の記録に○が1つ増える。まだ伸びるかもしれないが、伸びなかったら○が×になる。指が動く。
この一連の思考の中に、価格の話は一度も出てこない。出てきたのは○と×だけだ。
勝率は、上げようと思えばいくらでも上げられる。ターゲットを手前に置く。損切りを遠くに置く。含み損は「まだ決まっていない」と呼ぶ。どれをやっても勝率は上がる。上がったのは腕ではなく、勝ちと負けの定義のほうだ。
仮に、勝ちが平均+0.5R、負けが-1Rのルールを回すとする。10回のうち6回勝てば+3.0R、4回負けて-4.0R、差し引きは-1.0R。勝率6割でも減る。逆に勝ちが+3R、負けが-1Rなら、3回しか勝てなくても手元には残る。勝率は単独では成績を意味しない — ここは期待値の話(ブートキャンプ第8章)なので繰り返さない。
その先に、あまり言われない副作用がある。
勝率を上げにいくと、母数が消える
勝率の低さをルールの精度の問題だと考えると、対処は「条件を足す」になる。トリガーに1つ、上位足の向きに1つ、時間帯に1つ。足すたびに勝率は上がりやすくなる。同時に、成立する場面は減る。
減った先に残るのは、月に数回しか出番のないルールだ。それが本当に効いているのかを確かめるには、ある程度の試行回数がいる(第10章)。回数が集まらないルールは、良いとも悪いとも言えない。言えないまま、当たった数回の記憶だけが残る。そして外れが続くと、また条件を足す。ここから先は、検証ではなく編集になる。
条件を足すこと自体が悪いのではない。足すときに、何を支払っているかを先に書いていないのが問題だ。勝率・平均損益比・頻度は、3つ同時には上がらない。1つを上げれば、たいてい残り2つのどちらかが下がる。どれで払うつもりなのかを決めてから触る。
○×をやめる
いちばん効くのは、記録の列を変えることだ。勝ち/負けではなく、+R/-Rで書く。
○×で並べると、脳は数を数える。Rで並べると、大きさを見ることになる。同じ10行でも、読み取れるものが変わる。-2.5Rが1つ混じっていることに気づけるのは、Rで書いたときだけだ。○の隣に並んだ×は、ただの×にしか見えない。
冒頭のマウスに戻る。あの指を止めるのは意志ではなく、記録の書式だ。閉じても○が増えないなら、早く閉じる理由も減る。
勝率は成績ではない。設計のうちの、動かせる1つでしかない。
---
※ この記事は情報提供および学習を目的としたもので、投資助言・勧誘ではありません。取引の判断はご自身の責任でお願いします。
記事の一覧 | トレード用語集 | NoFOMO Club